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交際0日、再婚相手は元夫の弁護士です ―復縁狙いのクズ夫が詰みました―
交際0日、再婚相手は元夫の弁護士です ―復縁狙いのクズ夫が詰みました―
Author: さぶれ-SABURE-

第1話 私が「悪い妻」にされた日 01

last update Last Updated: 2026-02-11 16:12:40

(どうしてこんなことに……)

 離婚調停がうまくいかなかったため夫に裁判を起こされた私は今、家庭裁判所の法廷にいる。そこは、想像していたよりずっと小さかった。

 テレビで見る「裁判」のような圧倒的な迫力はない。けれどその分、逃げ場がない。

 正面に腰ほどの高さの木の壁が立ち上がり、その向こうに裁判官席がある。

 淡い木目のパネルが視界をまっすぐ切り分け、こちら側とあちら側を別の世界みたいに隔てている。裁判官席は一段高く、中央の大きな椅子が主役のように据えられていた。

 私は傍聴席ではなく被告席にひとりで腰掛けている。お金がないから無料相談の弁護士に成功報酬でお願いしていたのに、突然依頼を降りるとキャンセルされてしまい、ひとりで闘うことになった。

 この狭い世界にただひとり、まるで罪人になったかのようで息がつまる。

 視線の先、原告席には夫の小倉蒼大(おぐらそうだい)とその代理人である弁護士が並んで座っている。夫はスーツ姿で表情一つ変えず前を見据え、隣の座高が高く鋭い目をした弁護士が差し出す書類に軽くうなずいている。私の知っている夫とは別人のように冷たい横顔——それが今、私と対峙する原告の顔だ。

 裁判官が開廷を告げ、それぞれが証言台に向かって宣誓書の読み上げ(嘘をつかない宣誓)、粛々と手続きが進んでいく。形式的な言葉が交わされ、事件番号や双方の氏名が読み上げられるのをどこか他人事のように聞いている。心ここにあらず、という言葉があるけれど、まさに今の私がそうだ。現実感がない。自分がこうして法廷で夫と争っているという事実さえ、どこか遠くで起きている出来事のように感じられる。

「それでは原告側の主張をお願いします」

 裁判官の淡々とした声に意識が現実に引き戻される。夫の弁護士――財前理人(ざいぜんりひと)が立ち上がり、一礼してから静かに口を開き、低く落ち着いた声が法廷に響く。淡々としているのに、不思議と通る声だ。私の胸がどくんと高鳴る。

 弁護士は用意してきた書面を見ながら、整然と夫側の言い分を読み上げていく。

「被告は婚姻期間中、家庭生活において度重なる不誠実な行為を行い、夫である原告に多大な精神的苦痛を与えました」

 淡々と紡がれる言葉は刃物のように突き刺さる。一語一句が私を断罪する判決文のように響き、息が苦しくなる。

 不誠実な行為に精神的苦痛——なにそれ、それは私がぜんぶ受けてきたこと。

 それはこっちが言いたいことだ、と叫びたくなる。

 確かに私たちの結婚生活はうまくいっていなかった。でも、その原因は夫にあるはずだ、と私の頭の中で反論の声が渦巻く。

 夫の蒼大は、いつだって私を傷つけてきた。

 ひどい暴言に無関心、夫の希望で専業主婦になったのに、生活費は満足にもらえず挙句セックスレス……挙げればきりがない。けれどそれを証明するものなんてどこにもない。ただ私の胸に刻まれた記憶があるだけだ。

 私は拳を握りしめ、震える息をどうにか整えようと必死になる。

 弁護士の言葉は続く。「原告は誠意をもって家庭を維持しようと努めましたが、被告の度重なる問題行動によって夫婦関係が破綻し、離婚を考えるに至ったのです」

 まるで作り話だ。私が過ごしてきた現実とは似ても似つかない、勝手に書き換えられた物語。それが今、夫の『真実』として語られている。

 夫はあろうことか、私が怠惰で情緒不安定のためすぐに泣き出し、手が付けられないと訴えてきたのだ!

 病院送りにされ、勝手な診断書まで作られた。夫の友人が経営する病院だから、診断書に適当なことを書いても誰も偽物だとは思えない。ただ、私が情緒不安定になったのは紛れもない事実。それは夫の暴言が怖く、彼に睨まれるとなにも言えなくなって過呼吸状態になり、ポロポロと涙が出るようになってしまったからだ。

 辛気臭い女、お前と一緒にいると飯がまずくなる、さっさと家を出ていけ、ごくつぶし――これらの言葉はかわいらしいものだ。もっとひどい言葉を投げつけられたこともある。

 生活費も満足にもらえなかった私は、みすぼらしい女性に成り下がってしまった。最低限のお洒落もさせてもらえず、勿体ないと言われてスマートフォンも取り上げられ、夫の暴言を録音する手段を遮断された。全ての行動を『俺の管理下に置く』とされ、監視されていたから日記や記録を残すことも無理だった。

 裁判官がこちらを見る気配がする。

「被告は、ただいまの原告の主張について何か反論はありますか?」

 静かな法廷に裁判官の抑揚のない声が落ちる。私の喉はカラカラに渇いている。なにか言わなければ——そう思うのに、夫が見ているのだと思うと怖くて頭が真っ白になる。

「あの……」か細い声が、自分のものとは思えない声が喉から漏れる。

 いけない、しっかりしなきゃ!!

 胸の奥で警鐘が鳴る。ここで黙っていては、本当に私が全面的に悪かったということになってしまうのよ。

 私は震える膝を押さえつけ、なんとか声を振り絞る。「その……こちらにも、言い分があります」精一杯絞り出した声は、自分でも情けないほど頼りない声だ。

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